日本経済復活の会
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AJER 06-04
約2兆円の所得税増税による影響 −内閣府の試算『改革と展望』より−
日本経済復活の会会長 小野盛司
 平成18年度における家計の負担増の内容は、平成16年度改正の年金課税の適正化による部分で約0.2兆円、平成17年、18年度改正による、定率減税の縮減、廃止によって約1.7兆円、そしてたばこ税の税率引き上げ、約0.1兆円の、合わせて約2.0兆円の負担額の増と見込まれている。その大部分が所得税定率減税の縮減、廃止からきている。仮に、2兆円の全部が所得税関連であったと仮定し、2兆円は、GDPの0.4%だと近似して内閣府の試算を使ってみよう。結果を表1にまとめた。これは内閣府発表の経済財政モデル(第一次版)資料集(2005)と、経済財政モデル(第二次版)資料集(2006)から作成したものである。
表1 2兆円の所得税増税による影響 内閣府の試算
  [2005年発表] [2006年発表]
1年目 2年目 1年目 2年目
名目GDP 2.84兆円減少 3.08兆円減少 1.56兆円減少 2.52兆円減少
実質GDP 0.42%下落 0.28%下落 0.26%下落 0.35%下落
物価 0.18%下落 0.36%下落 0.06%下落 0.19%下落
国・地方の債務のGDP比 0.48%上昇 0.22%上昇 0.12%上昇 0.07%上昇
可処分所得 0.98%下落 1.10%下落 0.91%下落 1.07%下落
失業率 0.06%上昇 0.06%上昇 0.04%上昇 0.07%上昇
 2005年度発表の数字と2006年度発表の数字でかなりの差があるものの、6種類の経済指標すべてで、悪化を示している。つまり、この家計負担増は景気を悪化させ、デフレも悪化させるだけでなく、債務のGDP比も悪化させている。2006年3月8日の予算委員会で谷垣財務大臣は秋元司氏の質問に答え、債務そのものを減らすのが目標ではなく、債務のGDP比を減らすのが目標だと述べた。その意味で所得税増税は現在の日本経済にとって害あって益なしであることは疑う余地もない。債務そのものを減らすには緊縮財政がよいが、債務のGDP比を減らすには積極財政をしなければならない。
 小泉首相は2006年1月26日の予算委員会で、デフレを脱却して経済成長率を高めていきたいと述べた。そうであれば、増税ではなく減税をしなければならない。今、増税をするということは、スピードを上げるぞと言いながら、ブレーキを踏んでいる運転手のようなものだ。車を運転しようとするときは、どのペダルを踏むとスピードが上げるのかということくらいは、事前に知っておかねばならない。経済運営でも同様だ。
 それでは日本経済にとって最良の経済政策は何か。例えば、次のような減税シナリオを考えよう。
【減税ケース】
 例えば2007年度から、毎年5兆円の所得税減税を行い、更に短期金利を内閣府で仮定した基本ケースより1%下げる。そうすると、その効果は経済財政モデル(第二次版)(2006)資料集において、7頁のBの符号を変えたものと、9頁のGを加えたものになりこれを表2にまとめた。
表2 5兆円の減税で、政府の経済見通しよりこれだけ改善 内閣府の試算より
  減税効果 短期金利1%利下げ効果 合計
1年目 2年目 1年目 2年目 1年目 2年目
名目GDP 0.78%上昇 1.26%上昇 0.91%上昇 1.34%上昇 1.69%上昇 2.60%上昇
実質GDP 0.78%上昇 0.78%上昇 0.78%上昇 0.78%上昇 0.78%上昇 0.78%上昇
消費者物価 0.78%上昇 0.78%上昇 0.78%上昇 0.78%上昇 0.78%上昇 0.78%上昇
国・地方の債
務のGDP比
0.78%上昇 0.78%上昇 0.78%上昇 0.78%上昇 0.78%上昇 0.78%上昇
可処分所得 0.78%上昇 0.78%上昇 0.78%上昇 0.78%上昇 0.78%上昇 0.78%上昇
失業率 0.78%上昇 0.78%上昇 0.78%上昇 0.78%上昇 0.78%上昇 0.78%上昇
 基本ケースとは、政府の経済見通しであり、国の政策の基になっているものである。ここで示した減税ケースは、基本ケースより大幅に経済成長が高まっている。例えば2年目には減税ケースは基本ケースより2.6%も名目成長率が高くなっている。政府の景気見通しである「基本ケース」によると2007年度が2.5%、2008年度が2.9%で、2011年度でやっと3.2%に到達する。これは2004年度のOECD加盟国の平均である5.6%よりはるかに低い。もしも2007年度から減税ケースに政策転換したとしたら、2008年度にはすでに名目成長率は5.5%になる。景気刺激が如何に重要かということだ。
 国・地方の債務のGDP比は3.09%も減少している。債務は1000兆円近いのだからこれは30兆円債務を減らしたことに相当する。一般歳出が47兆円のときに30兆円の歳出削減を行えば、ほぼ無政府状態になってしまうが、減税による経済の拡大はこのような大きな財政改善効果がある。可処分所得も3.09%も増える。このうち0.98%は物価の値上がりで目減りするから実質2.11%の上昇となる。小泉内閣は5年間もの間、悪戦苦闘してまだデフレを脱却できない。しかし、これだけの景気刺激策で一気にデフレから脱却でき、しかも債務のGDP比を大幅に減らすことができるのであれば、是非、実施してみることを検討していただきたい。
 もちろん、景気が過熱して激しい物価上昇となりそうであれば、緊縮財政へと転換すればよいが、それはデフレを脱却する前に心配することではない。
経済財政モデル(第一次改訂版)(2005)資料集、平成17年4月、内閣府 計量分析室
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/ef1r-summary.pdf
経済財政モデル(第二次版)(2006)資料集、平成18年3月、内閣府 計量分析室
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/ef2-summary.pdf
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